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クレヨンネットが行っている絵を通しての心のケアについて

2011年05月25日掲 載

    クレヨンネットが行っている絵を通しての心のケアについて

東日本大震災が起きてから、被災地では物的支援に加え様々な精神的な支援を目的とするボランティア活動が行われています。たとえば、子どもたちに遊びの場やお絵描きの場を提供したり、絵本の読み聞かせをしたりするものもあります。
私たち東日本支援クレヨンネットでは、子どもが自由にお絵描きを楽しめる場作りのサポートをしています。しかし、この活動はただ単純に絵を描かせればいいというものでもありません。何より被災者の心に寄り添う配慮が不可欠です。クレヨンネットの母体である「アート&セラピー色彩心理協会」は、アートセラピストだけでなく、保健士や養護教員、看護師、精神科医、小児科医や臨床心理士など心のケアに関わる専門家も所属する民間団体です。様々な立場の経験や専門知識を役立てる形で活動しています。ここでは、今回クレヨンネットがどのような考え方で、またどのような方法で活動を始めたかをお伝えしたいと思います。

●クレヨンネットは被災者が中心になって活動しています

まず、震災後の3月27日に盛岡で絵を描くワークショップを始めましたが、これはクレヨンネットのメンバーの中で、岩手在住で実際に被災した人やその周辺の人たち、つまり被災者自身による活動からスタートしました。被災当事者が自らの心のケアのために自由に絵を描く場を作り始めたのです。
もちろん、その場合もお互い絵のテーマを指示したり色使いについて指図するようなことは一切しませんし、まして被災体験について聞き出したりするようなことはしません。大切なのは、緊張や不安をやわらげるという範囲で自由に絵を楽しんでもらうということです。
その後、宮城や福島でもクレヨンネットがワークショップを始めていますが、活動の中心メンバーはいずれも被災地で実際に地震を体験した当事者です。
これは、外部から心のケアをしようとして被災地に出かけていくこととは関わり方が違います。
外部から出かけていくとどうしても「何かしてあげたい!」という思いが強いだけに、それが善意であっても困難を極めている被災者や子どもたちとの間に気持ちのズレが起きることもありえます。すると、絵を描くという素朴な方法であっても、時には押しつけになったり、被災者の心をかき混ぜたりということも起きかねません。
クレヨンネットはあくまで地震を体験した被災地のメンバーが中心になることを前提にして場作りの支援をしています。東京にある事務局の役割は現地からの要請に応じて画材を届けたり、必要ならサポーターが行くこともありますが、常に活動の中心は被災地のメンバーです。

●お絵描きボランティアで注意した方がいいこと

もちろん、被災者支援の一環として、外部ボランティアによるお絵描きサポートの活動はあってもいいと思います。その場合、何よりも大切なのは被災者の気持ちに寄り添うことです。決して、被災体験について聞き出したり、災害に関係ある絵を描かせるような誘導があってはいけません。
もしも、被災者や被災児に気分転換として絵を描いてもらうような場面があれば、次のような注意事項を参考にしてください。これは、クレヨンネットのメンバーの基本的なルールにもなっています。

  1. お絵描きの場を提供する場合、避難所などその施設の責任者や使用者の了解を得、迷惑にならない範囲で場を設定しましょう。
  2. 周囲に呼びかけをする場合も、あくまで興味を持って自発的に参加することを前提にし、決して無理強いをしないようにしましょう。
  3. 絵を描く時は、内容について指示をしたり誘導などせず、好きなものを自由に描かせてあげましょう。絵について解釈したり、こちらから被災体験について質問することは絶対に避けるべきです。画材もクレヨンや色鉛筆など気分によって選べるとよりいいかもしれません。
  4. 子どもが思わず被災体験をイメージするような絵を描くこともあるかもしれません。実際、絵を描きながら怖かったことを語ったり、地震ごっこをするということも見られます。それが子ども自らの表現であれば、無理に押しとどめたりしないで見守りましょう。一人で抱えていたショックや恐怖心を安心できる場で発散していると考え、静かに見守り話に耳を傾けましょう。その後、自然に話題を変えて気持ちの落ち着きに寄り添ってあげることも必要です。場合によっては、粘土や折り紙などの手遊びができると高ぶっていた感情が鎮まる効果もあります。
  5. 絵による気分転換は1回切りで終わったりやりっ放しにするのではなく、出来る環境があれば継続するといいでしょう。定期的に絵を描く機会があれば、子どもたちはそれを楽しみに日常的な安心感を取り戻すきっかけにもなります。クレヨンネットのメンバーの体験では、阪神淡路大震災の後、約1年間に渡りお絵描きボランティアをし、ゆっくりと子どもたちの絵が変化していったことを観察しました。傷ついた心の回復には時間が必要なのだと思います。
  6. 大きな災害に見舞われた後には、時間がたってPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状が表れることがあります。それが正常な反応である場合もありますが、ひどいうつ状態や過度な不安など、深刻な精神的、身体的症状が出ている場合には、ボランティアの対応領域を越えています。専門医の受診を促しましょう。

(文責 東日本支援クレヨンネット共同代表 末永蒼生・江崎泰子)



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