和の色つれづれ
新春歌舞伎見物
2009年01月12日掲 載
明けましておめでとうございます。
皆様はどんな新年を迎えられましたか?
私は三ヶ日が明けて早々、歌舞伎を観に行ってまいりました。毎年恒例のようになっている歌舞伎見物なのですが、今年は、来年に取り壊される予定の伝統ある歌舞伎座を惜しむように、大勢の人で賑わっていました。着物姿の男女もけっこう多く、新春にふさわしい華やいだ雰囲気。もちろん私もその日は久し振りに和服。黒地に鴇色の桜を散らした染めの着物に、桜模様の帯と半襟で、一足早い春を装ってみました。
ところで歌舞伎と言えば、舞台の豪華さもさることながら、カラフルな衣装に圧倒される人も多いはず。でもじつはこの衣装、ただ見栄えだけでデザインされているわけではないということは、知っていましたか?つまり江戸の昔から、役柄によって身につける色や模様が決まっていて、それなりの意味があるということ。有名なところでは、「赤姫」といって、お姫様はたいてい赤地に金糸銀糸の模様が入った振袖を着ています。そしてよくあるストーリーは、この高貴な姫君が道ならぬ恋に身を焦がす、というパターン。その情熱的な女心が、赤という色で象徴されているかのようです。
恋と言えば、恋の病を患っている主人公が紫の鉢巻をして登場することがあります。これは歌舞伎用語で「病鉢巻」と呼ばれていて、本当の病気で伏せっている人などもこの紫の鉢巻を垂らしているのです。色彩心理から見ると、癒しの色でもある紫が、歌舞伎でこのような使われ方をしているのは、とても興味深いことですね。
その他、ちょっと二枚目のイケメンを象徴する色が浅葱色だったり、どこか野暮ったさの残る女の子は緑色の着物を身につけることになっていたりなど、役柄と衣装にはお約束事がいっぱいなのです。
また模様も同様で、たとえば逆三角形が連なる「鱗模様」と呼ばれるものは、魔物のような存在を表します。だからそのことを知っていると、鱗模様を身につけている人物が登場するだけで、「怪しいやつ」と思うわけです。
今回の新春歌舞伎では、三島由紀夫作 『鰯買恋曳網(いわしうりこいのひきあみ)』 が勘三郎と玉三郎のゴールデンコンビによる目玉の演目でした。最初、勘三郎扮する若者が登場するのですが、歌舞伎を見慣れている人は、身なりを見ただけで漁師かなとわかります。というのも、蛸の足をデフォルメしたような「蛸絞り」という衣装を着ていて、これは漁師や海女など水産関係者の定番の模様だからです。
こんなふうに色や模様のことに注目してみると、歌舞伎を観る楽しみが何倍にも膨らんできますよ。皆さんも、歌舞伎見物の折には、衣装の色にしっかり目をこらして見てみてくださいね!
(「色彩学校」プロデューサー 江崎泰子)
千年前に生まれた、秋のコーディネイト
2008年10月01日掲 載
「千年前に生まれた、秋のコーディネイト」
暑かった夏もいつしか去り、冷んやりと澄んだ空気の中に秋の気配が漂うようになりました。
この季節、私が好んで身につけるのが、紫と黄緑の配色です。歌舞伎の衣装などにもよく使われる派手な組み合わせですが、少しトーンを落とすと意外と落ち着いた感じにもなります。
このコーディネイト、日本の伝統的な配色法である、「重ね色目」から言うと、さしずめ「桔梗(ききょう)重ね」あたりでしょうか…。
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桔梗重ね |
今から約千年前、平安の貴族たちが編み出した配色法で、最初は2色の組み合わせから始まったのですが、次第に色数が増え、何色か重ねて着ることからその名前がついたようです。たとえば十二単衣の襟元や袖、裾のあたりに何枚もの衣の色が重なっているでしょう。あれは本来、何となく合わせるものではなく、重ね色目の法則にのっとって合わせる色なのです。
その法則とは、秋には秋の、春には春の、季節に合わせた色を用いるということ。重ね色目は元々、自然の草花などのイメージから生まれたもので、そのすべてに美しい名前がついています。
たとえば、秋の重ねを紹介すると…。
紫と白を合せる「萩重ね」、ワインレッドと緑を組み合せる「りんどう重ね」、青みがかった黄色と緑の配色「女郎花(おみなえし)重ね」も素敵です。「紅葉(もみじ)重ね」だけでも、緑の濃淡の「初紅葉」から、緑とオレンジの「青紅葉」、朱色と茶を合せる「紅葉重ね」まで、樹々が色づいていく様を何種類もの配色にして使い分け、季節ごとに全部で二百種類以上あったと言うのですから、平安貴族の美意識に脱帽です。
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萩重ね |
女郎花重ね |
青紅葉 |
平安貴族のお洒落を参考に、あなたも自分ならではの重ね色目を作ってみてはいかがでしょう。
(「色彩学校」プロデューサー 江崎泰子)
紫式部は光の演出家
2008年07月03日掲 載
今年は 『源氏物語』 が書かれて千年ということで、『源氏物語』 にちなんださまざまな催しが開かれています。私も、日本の伝統色を研究し始めた頃、平安時代の色に触れたいと夢中になって読んだものです。色彩心理という視点であらためて見直してみると、これほど興味深い文学はなかなかありません。
ご存知のようにこの物語の大筋は、光源氏と王朝の女性たちの恋物語なのですが、紫式部はそれぞれの女君たちに、シンボルカラーともとれる衣装の色を与えているのです。その色がまた、一人一人の性格や心理を見事に表しているのが、驚くばかり!
この話は書き出すと長くなりそうなので、いずれということにして、今日は 『源氏物語』 の中から、この季節に相応しい私の好きなシーンを、ひとつご紹介しましょう。
「蛍」という巻のワンシーンです。
光源氏には、父親役をつとめる玉鬘(たまかづら)という若い姫君がいます。その姫君に心を寄せている貴公子がいるのですが、なかなか傍に寄ることさえできません。当時、貴族の女性たちは、家族や夫でもない限り、人前で顔を見せたりすることはなかったのです。
ある梅雨の夜、姫君の元に近づいた光源氏は、衣装の下に隠しておいた蛍を部屋の中にいっせいに放ちます。そこでかの貴公子は、闇夜の中で無数の蛍の光に一瞬照らし出された、美しい姫君の顔を垣間見ることができた・・・というお話です。
何だか映像が浮かんでくるような、美しい場面だと思いませんか?!
紫式部は色彩表現だけではなく、光の演出にも優れた才女だったのですね。
蛍の光で愛しい人の顔を見るなんていう体験、環境破壊が進んだ現代では、残念ながらなかなかできそうにありませんね。
(「色彩学校」プロデューサー 江崎泰子)

和の色つれづれ
2008年06月18日掲 載
和の色つれづれ・・・
平安時代に生まれた美しい伝統色名や「重ね色目」、江戸庶民が生み出した歌舞伎、浮世絵、粋な流行色……などなど。
日本で育まれたすばらしい色彩文化について、ご紹介していきます!



