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2006年04月14日
花が咲き、友からの便りが届いた
待ち遠しかった季節。桜の散る美しさを味わい、木々が緑の葉を広げはじめたこの時期は最高。冬、腰痛に苦しんだ僕にとって、この暖かさは待ちに待ったものだった。そこへ、モノづくりをする遠くの友から次々に元気な便りが届けられた。今回は彼らの活動を紹介しよう。
まず最初は、千葉・鴨川に暮らす菜食文化研究家の鶴田静さんと夫で写真家のエドワード・レビンソンさんの二人から、新しい共著『二人で建てた家』(文春PLUS)を送っていただいた。二人の共同作業になる本はこれで何冊目だろう。同じシリーズの『田園に暮す』をはじめ、行間に風が流れているような鶴田さんのエッセイとレビンソンさんの光溢れる写真のコラボレーション。本を手にする度、いつも深い呼吸を促してくれる。
彼らが自分たちで家を建てたという話しを聞いてさっそく現地を訪ねたのは2年近く前の夏だった。迎えてくれたその家は、まさに彼らが名づけた「ソローヒル」という屋号にふさわしい姿を見せてくれた。広い空とぐるり360度、自然の力に包まれている景観に心が解き放たれる。
ソローというのは、もちろん『ウォールデンー森の生活』の著者、ヘンリー・D・ソローである。19世紀半ば、奴隷解放を唱え市民の不服従の自由を主張し、何より自然と共生する暮らしを実践し、トルストイやガンジーが師と仰いだアメリカの哲人だ。全ての地域の市場化を進めるグローバリゼーションが地球を覆いつくそうとする21世紀、ソローの生き方は純度の高い地下水のように胸に染みる。今の日本で、ソローのスピリッツを受け継いだライフスタイルを生き抜くことは、日々、創造を繰り返すことに他ならない。自然との共生は「癒し」や「地球に優しい」というキャッチコピーのついた商品を買うことなどではない。鴨川のソローヒルには、自ら自然に応答して暮らしを手作りしていく厳しさと、それゆえの幸せの空気に満ちた生活空間があった。
彼らの本のエピローグに次のようにある。
「夫と一緒に、あらんかぎりの力を注いで開いたこの土地。愉しみながらも、肉体的精神的な苦痛に耐えて作ったこの家。大勢の愛する人々が集うこの場所。そこに永遠にいられるなんて、これ以上の至福があるだろうか…………。
さあ迷うことなく、新しい生き方の計画、企画、立ち上げ、そして動かし愉しむことを始めよう。いつかは終わるにしても、“今”は無限にあるのだから。」
この本からは文と写真の掛け合いで、二人のコラボレーションによるメッセージが伝わってくる。それは、経済原理に寄り掛からない、自然との対話を原則とする生き方から生まれる幸せはすぐにそばにある、という呼び掛けではないだろうか。(http://www.t-shizuka.com)
同じ頃、今度は三重県熊野から一枚のCDが送られてきた。古くからの友、ミュージシャンの矢中鷹光さんがソロとしては初めて出したアルバムだ。矢中さんは、ヴォイスフルートという非常に珍しい独特の演奏をする。生の声で4オクターブも出るという。
CDのタイトルも『Voice Flute』(http://www.tennyoza.com/)。僕も何度かライブを聴かせてもらったことがあるけど、とても不思議な、自在な音が響く。人間そのものが素晴らしい楽器だということを思い出させてくれるのだ。
じつは矢中さんはシンセサイザー奏者の矢吹紫帆さんのパートナーで、20数年にわたって共に音楽活動を続けてきた。僕も、15年ほど前にこの二人と、色をテーマにした『色彩楽』というCDを共同制作したことがある。ピンクから始って様々な色のイメージを矢吹さんが作曲演奏したこのCDは、今でもわが「色彩学校」のテーマ音楽として、受講生に愛され続けている。このCD制作の時も、矢中さんはスタジオで力を注いでくれた。その時は彼がヴォイスフルートでCDデビューするなんて想像していなかったけど、今回のアルバムを聴くとそのイメージの幅の広さ、奥の深さに引き込まれてしまう。あの妙なる声はどうやって出るのだろう。
リーフレットには本人の言葉として「このヴォイスフルート唱法は下丹田に氣を入れ、口にかすかな空気腔を開け裏声でうなるという極めて単純な発声法です。口の形を微妙に変化させると様々なニュアンスが出ます」と説明してある。それだけ読むと簡単なようだ。僕も真似してちょっとやってみたけれど、やたら咳き込むばかりで、とてもとてもあの伸びやかな音色には程遠い。矢中さんの長年の工夫とトレーニングが積み重なってあのような美しい演奏が生まれたのだろう。
さらに、矢中さんの音楽には技術だけではない、何かとてもダイナミックな力を感じる。もしかしたら、それは、今彼らが生活している熊野という土地の磁力が乗り移っているのかもしれない。数年前、彼らが自ら作った音楽ホール「天女座」を訪ねた。最近、世界遺産に指定された熊野は、もともと伝統的な霊場である。「熊野詣で」で知られるように平安の昔から神々が宿る聖地だ。そのど真ん中に「天女座」はある。ホールのカフェの窓から外に目を向けるとそこは雄大な熊野灘が一望できる。ものすごいスポットなのだ。そこから眺めた黄昏の風景、やがて昇りくる月の輝き。一大パノラマを前に、1000年の昔にタイムトリップするようなゆったりした不思議な時間を味わったものだ。
こんなエネルギーの高い場所に暮らす矢中さんは、これからもますます豊かな音づくりをしていくのではないだろうか。また「天女座」を訪ねて、そこで月を眺めながらヴォイスフルートを聴きたいと切に思ってしまった。
投稿者 heart-color : 2006年04月14日 13:37
