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2007年05月14日

クジラは魚ではなく野生哺乳動物だということについての一冊の本

『日本はなぜ世界で一番クジラを殺すのか』(星川淳著 幻冬舎新書)

僕が育った長崎では「おくんち」と呼ばれる諏訪神社の秋の大祭が行われる。その中で、子ども心にも焼き付いたのがクジラの山車だった。大きなクジラをかたどった山車が数人の屈強な男たちによって曳かれ、神社の広場でものすごい勢いで回転する。観衆からどよめくような喝采が上がる。海の文化の中で生きてきた長崎人の血が躍るのだろう。
そんなわけで僕も子どもの頃からクジラの肉を食べて育った。祭りの山車として登場するクジラには感謝がこもっていた。しかしそんな素朴な捕鯨の時代はすでに去り、今、クジラの存在は僕たちと自然環境との関わりを鋭く問いかけてくる。
「捕鯨問題」という言葉を聞いた人は少なくないと思う。国際的には商業捕鯨が規制される方向にある今日、日本が「調査捕鯨」という名目で大量のクジラを獲り続け、国際的な批判を浴びている。一方、自然環境への問題意識の高まりや、精神的な癒しへの欲求もあり、若い人たちがクジラやイルカと触れあうホェールウオッチングも一般的に知られるようになった。
しかし、そんな体験をした人たちも、そのことと「捕鯨問題」がどのような関係にあるかピンとこなかったり、そのことについて考えようにも情報がなかったりという状況だろう。ここで紹介する一冊の本は、複雑に見える「捕鯨問題」をじつに分かりやすく解き明かしてくれる。最近刊行された『日本はなぜ世界で一番クジラを殺すのか』(星川淳 幻冬舎新書)である。

クジラの本2.jpg このタイトルには“なぜ世界で一番、海の大型野生動物を殺すのか”という意味がこめられている。かつて、象牙細工のために野生象が大量に殺され、絶滅の危機から密猟が厳しく取り締まりを受けるようになった。「捕鯨問題」はそれと同じような問題を含んでいる。しかし、ここに来ても、日本は水産庁を先頭に「調査捕鯨」という隠れ蓑で、実質的な「商業捕鯨」を押し進めようとしているらしい。その言い訳の一つに「日本の伝統文化を守る」という旗振りをしているのだが、その“歴史認識”も根拠が乏しい。伝統的というなら、かつては沿岸に泳ぎ着いたりしたクジラを捕獲していた慎ましい捕鯨だったはずだと本書でも指摘している。僕が子ども時代に見ていた祭りに登場するクジラの山車は、機械ではなく人力でクジラと対峙していたことを伝えていたのだ。

しかし、今や、世界中の海に出かけていって近代化した装備で商業資源としてごっそり獲ってくるのだから生態系への悪影響も深刻なはずだ。
話は逸れるが、僕はこの本を読みながらクジラと現代の子どもたちの姿が重なってしまった。僕の「子どものアトリエ」に集まる子どもたちの中にも、日々塾に追い立てられストレスで消耗している子がいる。中には何らかの虐待の傷を負った子もいる。現代では、全ての子どもたちが競争的な教育路線に囲い込まれ喘いでいる。自由に絵を描くひととき、彼らは息を吹き返しているかのようだ。最近の過剰ないじめや自殺事件は、いわば、“子ども世界の生態系”が狂ってきていることのSOSといっていい。僕がアトリエ活動のネットワークを拡げているのはそのためであり、子どもたちの“保護区”の役も果たさざるを得ないからだ。クジラの危機的状況を生み出している人為的な仕組み。そこには、子どもたちの自然性を奪うことと引き替えに、教育という名目で人的資源としての商品価値を高めようとする開発志向と同じ根が透けて見えてくる。

さて、クジラの保護区を守ろうとする世界的な潮流の中、なぜ日本は突っ張りつづけているのか。本書のどのページにもそのことを解明する道筋が引かれていて、隠された経済や政治の仕組みにまで目が開かされる。
著者は現在、グリーピース・ジャパン事務局長を努め環境保護や平和活動に取り組んでいる。「捕鯨問題」に向き合う当事者として問題の根を解き明かす説得力はずしりと響く物がある。
しかし、長年屋久島で暮らし、スピリチュアルな生き方を通して環境問題にもアプローチしてきた著者の眼差しはどこまでも穏やかだ。このしなやかな精神の持ち主が、グリーピース・ジャパンの活動を牽引していることに希望を感じるのは僕だけではないだろう。
20数年前、著者を訪ねて屋久島に滞在したことがある。その時と少しも変わることのない自然への瑞々しい愛情が今回の本にも溢れている。読み物としても環境問題を考える資料としても秀逸な一冊だと思う。


 

投稿者 heart-color : 2007年05月14日 17:24

 
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